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教員紹介詳細:髙瀨顕功先生 - 大正大学宗教学研究室

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教員紹介: 髙瀨 顕功 先生   ➢教員プロフィールはこちら

 
 
2021年2月、本研究室OB・OGの長島三四郎・大場あや、修士課程の柳澤最一・大藤椋太 の4名が

髙瀨顕功先生に zoomにてインタビューを行いました。ぜひご覧下さい!

 

1.【宗教学を専攻したきっかけ】

大場

はじめに、宗教学、宗教社会学との出会いをお聞かせいただければと思います。

大正大学大学院に進学され、修士課程は仏教学専攻だったと伺っていますが、宗教学を専攻されるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

髙瀨顕功先生
(以下、髙瀨)

浄土宗の僧侶になるには知恩院か増上寺で修行をしなければならないのですが、そのためには宗門大学(大正大学、佛教大学)の養成コースに行くか、あるいは教師養成道場という、短期間の集中講座のようなものを何回か受けていくコースがあります。一般の大学に行った方は教師養成道場に行く方が多いのですが、私は一般の大学に行き、養成道場などにも行かず、卒業後、大正大学に行って修行に臨もうと考えていました。

大正大学の大学院に入るときは、教典を読めたほうがよいということで、仏教学に入学しました。仏教学は基本的に経典などの文献学が中心で大変勉強になりましたし、浄土宗の教えを理解する上では非常に重要でした。

 

ただ、僧侶の勉強をしていく中で、より現代的な内容、つまり、現代社会と仏教の関わりとか、社会における寺院の役割みたいなものを学びたいと思って、星野英紀先生の大学院の宗教学の講義に参加させていただいたりしていました。それは非常に実存的な問いから始まっています。つまりお寺に生まれてお寺に育った自分として、寺院や仏教が現代社会にどんな役割を果たせるのか、どんな機能を持っているのかみたいなことを知りたかったということです。

 

そんな時、当時大正大学の宗教学研究室に浄土宗の僧侶で宗教民俗学をご研究されていた鷲見定信先生(2010年逝去)がいらっしゃって、宗教学ならあなたの興味関心に近いことができるよとお誘いくださいました。そういった動機とご縁で宗教学の門を叩いた、という流れですかね。

大場
現代社会と宗教への関心は、どういったきっかけで生じたのでしょうか。
髙瀨

大正大学に進学する前、養護学校の教員をしていたことがあります。ほんの短い期間でしたが。

それが非常に自分の中では大きなターニングポイントだったかなという気がしますね。

大場
そうなのですね。そこではどのようなことがあったのですか。
髙瀨

養護学校なので、いろんな子がいるんです。自閉症の子とか、ダウン症の子とかいろんな子がいて、いろいろ特徴があって、みんな自分の気持ちにストレートですごい面白いんですよね。そういう子たちと一緒にいるとき、私が見ている世界とは違う世界を見ているという気がしたんですね。

 

例えば自閉症の子って、環境が変わるとすごく適用が難しいんです。教室の様子が変わったら落ち着かないんですよね。でも、我々からしたら、教室って多分黒板があって教卓があって机が並んでいれば「教室」って、その位置がずれていても、多分「教室」って思うんです。それって概念的にものを捉えているんですが、彼らからしたら、4月1日に入った教室が「教室」で、それが変わるとここは「教室」じゃないみたいな。それで、なるほどそういう世界の見方もあるのかと、自分が見ている世界が全てじゃないんだなと思いました。

でも、結局この世の中って、多数派が社会をデザインしているから、少数派ってすごく生活しづらいルールがあったり、生きづらさを感じていたりするんですね。あれしちゃいけないとか、これしちゃいけないとか、彼らからしてみると、確かに適応するのは大変だなと。そういう社会的弱者、社会に困難を抱えた人に思いを寄せる時間があったんです。また、彼らが学校卒業した後に行く場所がないという話もよく聞きました。

 

そういうときにお寺って何か役に立てないかなとか、社会の困っている人とか、あまり気に掛けられていないような人のために、寺院ができることって何かないかなと思っていたのが、現代社会と寺院みたいな興味関心に繋がっていると思いますね。

大藤

それは現在も「ひとさじの会」とか、そういう社会活動にも関心として繋がっているのでしょうか。

髙瀨

そうですね。研究としても繋がっています。宗教学に入って、漠然と「現代社会と仏教の関わり」という大きなテーマはありましたが、具体的にそれがどういう学術的系譜に位置するのかあまりよくわかっていませんでした。その時も、鷲見先生に、エンゲージド・ブディズム(Engaged Buddhism)という領域をご紹介いただきました。

そのときに小川有閑先生とも知り合いました。小川先生は、東京大学の宗教学研究室にいましたが、鷲見先生のゼミにも来ていたんですよね。それで、小川先生から、「そういう研究をするんだったら、実際に現場も知っておいた方がいい」と言われ、吉水岳彦先生(※「ひとさじの会」の創設メンバー。現・事務局長)を紹介いただきました。

そこで、研究目的で参加させてほしいと吉水先生に頼み、許可をもらって、宗教者による生活困窮者支援というフィールドが決まりました。

 

2.【アメリカへの留学とフィールドワーク】

大場

色々なきっかけや出会いがあり、方向性が決まっていったのですね。

高瀬先生は留学もされていますが、どういった経緯だったのでしょうか。

髙瀨

大学院の博士課程に入ったとき、大枠のテーマは決まっていましたが、できれば留学もしたいと指導教授の弓山達也先生(現・東京工業大学教授)に相談したんですね。そうしたら、最初に参加した学会(2009年の「宗教と社会」学会)で、当時神戸大学にいらっしゃった稲場圭信先生(現・大阪大学教授)を紹介してくださったんです。

お話の中で、稲場先生から、「ペンシルベニア大学のラム・ナーン(Ram Cnaan)先生が、FBO(※Faith-Based Organization、信仰に基づく組織)とボランティア活動について調査をされているから留学先にいいのでは」と言われました。

それで、ダメもとで「アメリカで学びたい」というメールを送ったら、給料は出せないけどデスクなら用意できるよ、とのお返事をいただき、受け入れていただけることになりました。

長島
ペンシルベニア大で実際にラム・ナーン先生の授業を受けていたとき、印象に残ったエピソードなどがあれば教えてください。
髙瀨

ペンシルベニア大学に行った当初、最初に統計の授業を取っておくといいよと言われました。統計学を英語で受けるみたいな話なので、授業を受けても全然わからなくて苦労しましたが、人文学と社会科学ってこんなに違うんだというのも学びましたし、学問としてのディシプリンが違うというか、何か日本の宗教学は、社会学みたいな感じもするし、人文学みたいな感じもするし、両方架橋している感じがしますが、アメリカは学問の手続的に完全に違っているという感じです。文献なのか、それとも社会調査なのかとか。

 

学んだ場所がSocial Policy & Practice (通称SP2)という社会政策実践研究科みたいなところだったのもあると思います。そこでは社会科学的な手法を基礎に、こうやって世界・社会を観察/分析するんだということを学びました。あと、調査や研究が社会にどういうインパクトがあるのかを意識することも教えられました。それをやることでどんな学的意味があるのか、社会への貢献は何かということです。

 

そういう話を聞いて、今やっている研究とか、今調べていることというのが、学術的にどういうふうに、どんなところに関わる問題なのかとか、あるいは社会の中でどのように意味のあるものなのだろうかと考えるようになりました。

大場
アメリカではどのような調査をされていたのですか。
髙瀨

日本でもひとさじの会以外に、キリスト教会のボランティアなどにも1年以上通っていたので、アメリカでも同じようなホームレス支援、生活困窮者支援のフィールドでどのような活動をしているかを見ようと思ってホームレス支援をしているFBOを4か所くらい定期的に回っていました。

こういう人が来ているとか、机の配置がこんなふうで、こういうふうに人が座っていてとか、出されるものはこれで、とか、調査後カフェでフィールドノートを整理して、その日見たこと聞いたことをまとめるみたいな感じで。

柳澤
ホームレスの方の人種というか、そういうのは特徴がありましたか。
髙瀨

人種はいろいろですね。正確に言うと、食事を求めに来る全員が全員ホームレスというわけではなくて、生活困窮者というほうが近いかもしれないです。家はあるけれど、十分な生活ができていないという人も中には含まれます。

日本の炊き出しだと、ホームレスの方が並ぶというイメージですが、何か困っている人どうぞみたいな、もっと言うと、別に困ってなくてもどうぞみたいな、誰でもどうぞみたいな感じですね。なので、見てみたら普通の人も来ていることもあるし、FBO側もそれを排除はしません。

 

教会によって、例えば黒人教会だったら、黒人の利用者が多いとかはあります。プレスビテリアン(長老派教会)みたいな、割とホワイトのメインストリームがやっているような教会だと白人系の困窮者の利用もありますね。

ただし、白人といってもヒスパニックの人が多いかな。あと、生活困窮のバックグラウンドは、単に経済的なものだけではなくて、メンタルヘルスの問題とか、薬物の問題、従軍経験によるPTSDとかそういった背景があって生活困窮に陥る人もいます。

柳澤

アメリカは多人種・多国籍の国ですが、高瀬先生がいらっしゃった研究室の国籍はどのような感じでしたか。

世界中から人が集まっているイメージですか。

髙瀨

そうですね。一緒に授業を受けていた5人の内、3人は中国人でした。

みんな別にアメリカで生まれていないので、自分だけ外国人だという言い訳ができない感じでしたね。

でも、仲良くなって授業の振り返りとかが一緒に出来てすごく助かりましたね。

柳澤
日本人は一人ですか。
髙瀨

日本人は一人です。フィラデルフィアには、日本人勉強会という会があって、留学生だけじゃなくポスドクや企業派遣の人などと交流する機会は月1回ほどありました。

ペンシルベニア大学には、医学系で留学してくる人とかは多いんですけど、あとは、ビジネススクールも有名なのでMBAを目指してくる人もいますが、人文系の人は全然いなくて、非常に珍しがられましたね。

「え、宗教やっているんですか」みたいな(笑)

 

3.【博士論文の執筆に際して】

長島
日本に戻られてから博士論文を書く段階で、先ほどのラム・ナーン先生の論文とか、弓山先生のご指導とか、実際に論文を形にする時には何が大きかったのでしょうか。
髙瀨

フィールド、事例はあったけれど、それをどういうふうに分析の俎上にのせて検討するかは、すごく悩んだところなんですね。それは「宗教と社会貢献」研究会でも常に言われてきたことで。蓄積される事例をどう分析するかということですね。

 

それで、もしないなら自分で分析枠組みを作ればいいんじゃないか、と考えました。留学中に授業で読んだ論文で気になっていた理論がありました。それは、マーク・チャベス(Mark Chaves)の、宗教組織を宗教的権威構造と行政構造の二重構造からとらえるというものです。

宗教的権威構造とは、ウェーバーの理論を参考に、人間に対する精神的な支配のシステムの基礎を形成する価値の支配を通して、その支配を強化し目的を達しようとする社会構造のことです。

一方、行政構造とは、具体的な事業(海外・国内布教活動、教育、出版など)を行う部門のことで、きわめて合理的なもので、どの教団にも同じような部門が存在しているといっています。そして、この行政構造が宗教的権威構造から自律化していくことを組織レベルでの世俗化としてとらえるというものです。

 

こういう理論を応用して、経済的資源や人的資源が教団組織からどのくらい近いか、あるいは遠いかという資源の距離感を基にマトリックスを書いて、社会活動をする組織体としてのFBOを分析していったらいいんじゃないか、と考えました。そして、その構想を「宗教と社会」学会で発表し、それなりに手応えもあったので、これを軸に博士論文を書いていきました。

大場
大正大学の大学院に在籍されていた当時、先生方はどなたがいらっしゃったんですか。
髙瀨

星野先生、鷲見先生、弓山先生、村上興匡先生と藤原聖子先生(現・東京大学教授)、ちょうど留学するぐらいの時期に寺田喜朗先生もいらっしゃいました。錚々たるメンバーですよね。

 

藤原先生の授業はとくに印象に残っています。藤原先生の授業では、英語の論文を講読して紹介するものがあって、Religious Education(宗教教育)の論文を読んだんですね。ちょうどそのとき世界各国の教科書の中で宗教がどう扱われているかということをテーマに研究をされていました。

課題がレポートではなく、論文の書評を書こうみたいな課題で、非常に勉強になりましたね。「いずれ書評を書く機会があるでしょうから」ということで、その練習もかねてくださったのだと思います。

こういう課題だと、単に論文の内容を紹介するだけではなく、これまでの研究の中でこの論文がどういう位置付けになって、どのような価値があるのか知らなければ書けないので、ためになりましたし、記憶にも残りましたね。

 

4.【大学院進学を目指す人へのメッセージ】

大場
ありがとうございます。では最後に、大学院の進学を考えている人へ向けてメッセージをお願いします。
髙瀨

研究者になることだけが大学院に進学する理由ではないかなと思います。

むしろ現場を持っている人が、宗教者とか大正大学の場合だと、特に僧侶が、自分たちの活動や行為がどういうふうに位置付けられているのかを客観的な視点で学べる場だと思います。そういう学びができるのも、大正大学の宗教学の強みかなと思います。

そういった意味では、学んだ理論や知識を活かす場を持つ僧侶の方にこそ、ぜひ来てもらいたい場所でもあります。

もちろん、特定の信仰はなく、学問として究めたいという人にもぜひ来てほしいです。

長島
大場
柳澤
大藤
ありがとうございます。時間がずいぶん超過してしまって申し訳ありません。この辺りでインタビューを終えたいと思います。今日はお忙しいところ、貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

(2021年2月インタビュー)

 

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