教員紹介: 弓山 達也 先生
1963年、奈良市生まれ。1986年、法政大学文学部哲学科卒業。2001年、大正大学大学院文学研究科宗教学専攻博士課程満期退学。日本学術振興会特別研究員などを経て、1998年、大正大学の任期制専任講師。2000年に博士(文学)を取得。2006年より現職。専門は宗教社会学。現代世界の宗教性/霊性を研究。主な著作・共編著として『いのち 教育 スピリチュアリティ』『現代における宗教者の育成』『天啓のゆくえ』『スピリチュアリティの社会学』『癒しを生きた人々』『癒しと和解』『祈る ふれあう 感じる』など。財団法人やNPOなどの活動を通して、研究者・学生、宗教者、市民をつなぐネットワークを模索している。
1.【宗教的背景について】
聞き手
|
奈良市生まれということですが、、何か宗教に関連する家柄だったのでしょうか。 |
---|---|
弓山先生(以下、弓山)
|
よく言われますが、そうではありません。本籍は結婚するまで愛媛県の新居浜で、たまたま父の転勤で奈良在住の折に僕が誕生したのです。3歳で東京に出てきて、赤羽やや王子といった京浜東北線沿線を転々としましたね。 |
聞き手
|
では宗教に関係ない? |
弓山
|
という訳でもなく、住んでいた所々で、近所に新宗教の信仰者の方がおられて、小学校の時から、誘われて、いろいろと道場や教会に行っていました。 また博士論文を元に執筆した『天啓のゆくえ』の基本的な調査も、井上順孝先生などと『新宗教事典』(弘文堂)の調査をご一緒させていただいた時が起点となっているのですが、偶然、先ほどの京浜東北線沿線に、調査対象となった教団が点在していましたね。そして王子に住んでいた時は歩いていける距離に大正大学もありましたし、やはりご縁があったんでしょうね。 |
2.【宗教研究を始めたきっかけ】
聞き手
|
そうしたご縁の中から、宗教を研究しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。 |
---|---|
弓山
|
法政に入学した時に法政大学哲学会という学生組織があって、そこで宗教学研究会というのが立ち上げられて、そこに参画したのが大きいです。詳しい話は『天啓のゆくえ』のあとがきに記してあるので、そちらに譲りますが、80年代当時は「自主ゼミ」という伝統があって、大学の講義や演習とは別に学生が自主的に学習をするんですね。そこで4年間を過ごしました。読書会、講演会開催、学術大会で研究発表、懸賞論文に応募と、けっこうアカデミックな活動をしていましたね。日本宗教学会の準会員にもなって、学部時代から学術大会にも行っていました。 |
聞き手
|
学部生で学会に行かれていたんですか? |
弓山
|
それこそ83年の大正大学、85年の立正大学の大会に行きましたよ。大正では竹中信常先生の基調講演を聴きました。 |
聞き手
|
修士論文は金光教で、博士論文は天理教の分派なんですね。弓山先生というと、現代のことをやっているという印象が強いのですが、幕末維新期の新宗教と現代宗との「あいだ」といいますか、新宗教研究からスピリチュアリティ研究への移行を簡単にご説明願いますか。 |
弓山
|
単なる変節です。 |
聞き手 | 変節ですか? |
弓山
|
というのは冗談なんですが、ネットでは、そんなふうに評価されています。新宗教研究の閉塞から、スピに逃げたって(笑)。 |
聞き手
|
で、逃げたということになるんでしょうか? |
弓山 | 自分の中では必然的だと感じています。新宗教研究で僕が一番関心があったのは個人の体験と教団の共同性との関係です。病気治しの奇跡や啓示を受けるような体験が、どういうメカニズムに個人を超えて運動とか、教えとか、教団へと共有化されていくのか。同じような関心で癒しの問題やスピリチュアリティの問題にも向かいました。癒しの体験がどう癒しのムーブメントにつながるのか、個人のスピリチュアリティがどうスピリチュアルな文化へと向かうのか。 |
3.【近年の研究および活動について】
聞き手
|
それは弓山先生自身が癒しやスピリチュアリティを求めているとか、そういう癒しやスピリチュアリティが満ちあふれる社会になったらいいなという実践的な課題も含んでいると理解していいですか? |
---|---|
弓山
|
誘導尋問ですね(笑)。確かにそうかもしれません。研究者がいて、研究対象があってという図式は、僕はピンとこないのです。何かマジックミラー越しに自分を安全な場所に置いて、対象を観察するというのは違う気がする。新宗教研究から、より自分の問題に切実な癒しやスピリチュアリティに関心が移っていったのも、そのためかもしれません。 最近では宗教の社会貢献を研究するすることが流行っていますが、僕は宗教研究の社会貢献抜きに、こうした研究をするのはどうかと思っています。むしろ宗教と市民とをつなぐのが宗教研究者のつとめの一つだと考えています。 |
聞き手
|
弓山先生が財団とかNPOとかに関わっているのも、そのためですか? |
弓山
|
財団法人としては、全国青少年教化協議会と国際宗教研究所に関わりをもっています。前者はもう引退しましたが、いずれも、現代性とか、研究と実践という点に目を開かせてくれました。NPOは模索中ですが、何か実践の場にできればと構想を練っています。幸いにも他大学に同好の士というか、ネットワークもできつつもあります。 |
聞き手
|
弓山先生の今後の活躍が楽しみです。 |
弓山
|
ぜひ、ご期待ください。 |
(2010年3月インタビュー)